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画人・富岡鉄斎展をみて

 最も印象深かったのが「魚樵問答図」。六曲一双の右隻には、舟だまりや漁場で忙しく立ち働く人物が細かく描かれ、なおかつ画面右上へ連なる岬の峰々とそこへ接する白い海面が、広々とした海景を想起させる。人物であれ、近中景の岩山や樹木群であれ、西洋画の遠近画法からみればでたらめとも言える描法ではある。だが、これはこれなりに得心できるというか、スッと画中に入り込めるから面白い。カタログに掲載されている小図でも、鳥瞰的視点からの雄大な印象は変わらない。

 入室して最初に目にとまった作品は「果蔬図」(縦長軸装)だ。枯れ蓮・西瓜・葉菜・枇杷・栗・柿などを組み合わせた簡素な画だが、略筆ながらいずれも対象の特徴をうまくとらえており、その描写の的確さに感嘆。画軸に書き込まれた「・・試写果蔬問老農」の文字とも照応して、楽しい画となっている。この作品を含めた前期の作品のなかでは、梅の名所「月瀬図」四曲一隻の「普陀落迦山図」に親しみを覚えた。

 製作年不詳とあるが、六曲一双の「人物図貼交屏風」も興趣が尽きない。親孝行で知られる江戸時代の農民武丸正助や俳諧師松尾芭蕉、売茶翁、宮本武蔵など如何にもそれらしい風体だ。その印象をメモろうと手帳を取り出すと、画板にはさんだメモ用紙と鉛筆を差し出した館員から、「これを利用下さい」と指示される。

 独学で画業を習得した鉄斎は、「古名人の真蹟を写すことにより、その画格筆意を研究・」した。京都市美術館所蔵の粉本のなかから11図が並べられ、鉄斎の画技習得の一端が伺えた。

 50歳半ばから70歳までの中期作品では、冒頭に書いた「魚樵問答図」同じく六曲一双屏風「妙義山図・瀞八丁図」が圧巻。反対側の壁面近く身を引いても作品を一望できないくらいの大作だ。
カタログ表紙に使われている「米法山水図」のように荒い(強い?)筆遣いが多い作品のなかで、「老子過関図」は丹念で密度が高い描法を使っている。

 高齢になってなお多数の傑作を生み出す晩期の作品の中では、「茶僊陸桑苧図」がなんともひょうきんでとぼけた味の絵だ。この作品や「夏景山水図」「懐素書蕉図」などは、墨の中に僅かの付彩が効果的で印象が強い。「瀛洲仙境図」は市井の喜怒哀楽を超越した心境がそのまま絵に現されている感じだが、苔むした岩肌を白緑で大胆に塗りつぶし、人物の着衣や寺院(?)の壁面などの朱色と互いに呼応して観るものに迫る。

 2月下旬、富山水墨美術館で開催されている「画人・富岡鉄斎展」を観て来た。その時の印象を図録を参照しながら記してみた。通常、図録は購っても1~2時間も通覧すれば、書棚に収まってそれきりになるのだが、今回の鉄斎展カタログは、夕食後などに幾度も手にし、その都度新しい魅力を発見し愉しませてもらった。 

(‘14-3-15)

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